北九州市立大学同窓会

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第63回同窓会総会・特別講演 (平成25年10月27日/リーガロイヤルホテル小倉)

「大学ランキング」から見た北九州市立大学
朝日新聞出版「大学ランキング」編集統括
北九州市立大学経営審議会委員(学外委員)
小林 哲夫
 

 北九州市立大学同窓会総会の特別講演の講師にお招きいただきありがとうございます。 縁があって大学の情報誌を20年以上続けております。 もうひとつ縁がございまして、ご紹介いただいたように北九州市立大学の経営審議会の学外委員を務めさせていただいております。 私自身、東京生まれの東京育ちで、九州には仕事でもあまり来る機会がなく、九州の事情や状況というのは恥ずかしながらまだ疎いところがあります。 それでも大学についてはずいぶんいろんなところを回りました。 「大学ランキング」という、大学からすると、あまりそういう手法取ってほしくない「ランキング」というものを作って、 怒られたり、嫌われたり、あるいは励まされたり、そういうことを経験してまいりました。
 「大学ランキング」という本は結構、分厚い本になります。創刊したのは1994年、今からちょうど19年前です。 最新号で20年目になりました。もともとこの本を作ろうと思ったのは、創刊号のコンセプトに「偏差値神話に代わる大学評価を」 というキャッチフレーズを考えて作りました。偏差値とは違うような大学の見方をしよう、大学の得意分野を違ったところから光を当てて大学を、 特に受験生に紹介しよう、社会に大学のあり方を問いかけよう、などというようなコンセプトで、この本を作ってまいりました。
 「大学ランキング」というのが、どうしても受験生サイドからすると、偏差値ということになってしまうのですが、この見方を変えると、 いろんなところから光を当てることによって、大学のこの部分は意外に強いんだな、ということが分かると思います。
 今日は私の専門分野である「大学ランキング」の各種の指標から見た北九州市立大学の評価について話を進め、 流れとしては「公立大学の役割」や「大学の認知度」などを考えています。 レジュメ(講演の要約版)を配布させていただいたので、ご覧いただけると助かります。

≪警察官は公立大でトップ≫

 2012年度の卒業生で警察官に採用された人数は21人です。全国順位は50位台なのですが、公立大学の中ではトップになっています。 つまり全国の公立大学の中で警察官が一番多く輩出している大学という風に思ってください。 恐らく皆さんは、このことを知らなかったと思います。これにはいろんな理由があると思います。 ひとつはそういう志向、警察官志向が強いというか、なりたいという方がこの年、非常に多く集まった。 あるいはキャリアセンターの中でしっかりした指導をなされたなど、いろんな要素があると思うのですが、 大学の規模を考えると、これはかなり多いと思います。九州で4位となっていますのは、福岡大学とか九州産業大学などは、 学生数がもともと多く、母数の大きい大学は数の論理でどうしても上に行ってしまうということもありますので、 全体の卒業生の比率から考えて見ると、恐らくこの中でもトップではないか、と思います。
 意外なところと言っては申し訳ないのですが、キャビンアテンダント(CA)、つまり昔のスチュワーデスです。 旅客機の客室乗務員ですけれど、5人という数字が出ていました。これも公立の中では一番多いです。 全国の中で35番目、かなり多いと思ってください。九州で2番目、確か1番が西南学院大学だと記憶しております。
 私が警察官とキャビンアテンダントを取り上げたのはなぜか、といいますと、2011年の東日本大震災以降、警察、消防、 自衛官に対する若い人の志願状況がものすごく高まっています。役に立ちたい、特に人に接する仕事、人の役に立ちたい、 社会の役に立ちたい、国の役に立ちたいと、こういう仕事に就きたいという方が、高校生、大学生から非常に多くなりました。 そのことによって競争率もずいぶん高くなりました。
 特に私立大学は警察官や消防官を養成します。中には自衛官も養成しています。これは40年前では考えられないような話です。 大学から自衛官に就職するというのは、私は70年代後半の大学生なのですけれど、ちょっとあり得ない話だったのです。 逆に言うと、今は自衛官という仕事に対する社会的な見方、学生の見方がだいぶ変わってきたということで、 自衛隊の幹部を含め自衛官になりたいという学生がずいぶん増えました。これも大震災の災害救助を目の当たりにした若い方の思いだと思います。 60年代、70年代的な感覚からすると、「えーっ」というような感じがするかもしれませんけれど、これも時代の流れなのかなと思っております。
 キャビンアテンダント(CA)や警察官の話をもう少し詳しく続けます。JALもANAも非常に経営状況が厳しい中、 CAの採用についてはなかなか定期的に、常勤として正規採用がなかなか難しい中、昨年あたりから新たに人材を確保しようという動きが出ています。 これも大学にもよるのですけれど、CAを養成しようという大学も出てきました。たとえば警察官とかCAですと、 高校や受験生向けの説明会などで「わが北九州市立大学から警察官やキャビンアテンダントにこれだけ入っていますよ」と話せば、 受験生は目を輝かせます。でも大学の役割ってそれだけではもちろんないんですよね。そこが大学の悩みでもあります。
 東洋経済とか週刊ダイヤモンドとか、いわば私たちのような雑誌が就職実績で大学のアイデンティティを問おうとしています。 これはメディアだからある意味で仕方ない部分がありますし、自省、自虐っぽく言うと、そんなもので大学を語っていいのかと思いながらも、 社会的な関心はやはり就職状況にあります。その中で大学としてはそういうところを強みにしていいのものなのか、どうかというところも、 今、悩んでいるところです。
 私立大学についていうと、たとえば「わが大学は警察官合格率日本一」というのを広告で謳っているところもあります。 どれだけ裏づけが取れているのかという部分では問題があるといえばあるのです。そういう就職だけのことを訴えることは、 大学って就職予備校じゃないか、という大学への批判的な言葉として昔はあったのですが、今はこれさえも無くなってきており、これが現状です。
 皆さんは大学を卒業されて30年、40年、50年経った今、大学の就職状況を見て、大学とは就職だけなのかな、 とお思いになるかもしれません。これはひとつの大学の捉え方として、北九州市立大学からは警察官も消防官もすごく多かった、 というように、あくまでひとつの見方で、北九州市立大学が「警察官養成大学」では決してないわけで、その辺はご理解いただきたいと思っています。
 ランキングの中で、中学校の先生と高校の先生が意外に少ないのは残念でした。文学部、外国語系があるのですけれど、 もう少し多くてもいいのかなと。たまたまその年の志願者が、学校の先生になろうという方が少なかったとか、 ある意味で偶然性というのがあると思いますが、この辺が今後、北九州市立大学を語るひとつのポイントになるかな、と思っています。

≪その昔は硬派の大学の印象≫

 ちょっと横道に逸れますが、北九州市立大学について私の知っていることを申しますと、私はずっと東京で育ったので、 受験のときも共通一次の第1期生ですが、大学選びの中で、さすがに九州まで目が届きませんでした。私が最初に北九州大学(当時)という名前を知ったのは、 実はテレビなのです。今から30年ちょっと前、1980年代の半ばぐらいですね。東京のキー局の日本テレビというところが「元気が出るテレビ」 というのをやっていたのです。司会がビートたけし。そこでご存知の方いらっしゃるかも知れませんけれど、北九州大学の応援団が出ていたのです。
 知っておられる方はいますか。見たことある、あるいは覚えていますか。私は20代半ばのころだったのですけれど、そのときのイメージが、 なんて硬派な大学なんだろうと。応援団がすごく怖い雰囲気があって、公立大学はそれぞれ地域にいろんな特色があるんだなと、まずその印象が私にはありました。 そんなことは決してないんだ、と後々言われましたが、それが私の最初の北九州市立大学体験でした。 キャンパスにテレビカメラが入って応援団の練習風景があって、 まだ80年代というのはそういう硬派なものがファッションとして受け入れられていた時代であったと思います。 一般学生が冷ややかな目で見ながらも応援団が一生懸命やっている。どこの大学もそうなのだなと思ったことがあります。

≪独立行政法人化で危機感≫

 この仕事をするようになって公立大学というのが、どういうものなんだろうと考えるようになりました。 この公立大学の呼び名はメディアが付けたと思います。当時の文部省だと思うのですが、昭和24年(1949年)、新制大学が発足してから国立大学、 公立大学、私立大学と設置者ごとの名称になりました。
 多分そのころだと思いますが、国公立大学と私立大学という分類です。公国立大学ではなく国公立大学です。 私が「大学ランキング」を創刊編集した20年前も便宜上、国公立大学という呼び名を付けたのですけれど、 正直なところ、まだ大学改革、大学設置基準大綱化という、1990年代に大学を変えようという動きが起こる前の編集作業だったので、 正直申しまして、国立、公立、私立の中で、公立大学が改革部門の中で一番遅れているのではないか、という見方がありました。 設置者が自治体ということもあって、お役所的になってしまう。そういうこともありましたし、どういう風に大学を改革するのか、 どう動いていいか分からないということもありました。大学改革で私立大学はすっと動いたのですけれど、 最初に国立大学独立行政法人という呼び名に変った国立大学は、自分で稼がなければ、国立大学といえども潰れてしまうというので、 ものすごく危機感を抱いて、私らのメディアに対しても猛烈なアピールをし始めたのが1990年代の終わりごろからでした。 まだそのころ公立大学は、国立大学ほど危機感はなかったと私は感じています。その後、公立大学も法人化し、設置者が自治体ということで2000年以降、 特に今世紀に入ってからいろんな取り組みを始めました。むしろ最近では公立大学の方が時々、話題に上ります。

≪どう変わる東京、横浜、大阪の公立大≫

 以前なら考えられなかったことですが、石原慎太郎さんが東京都知事になって東京都立大学が首都大学東京と校名が変わり、 教員が大幅に入れ替わって学部が大幅に改組されました。それが公立大学のかなり大きなショック療法的な動きになっているかなと思います。 その後、横浜市長に中田宏さんという方がなられて横浜市立大学も学部が変わり、教職員も大きく入れ替わりました。 経営陣には松下政経塾出身とか、MBAを取ったとか、企業の経営感覚を持った人材が入ってきて、これは非常に賛否が問われました。 大学はビジネスではないという見方と、ビジネス的な要素を入れなければ大学はこれから生き残れないと、いうような見方に分かれました。
 それとともに、これは公立大の中で一番大きな動きといえると思いますが、大阪府知事になった橋下徹さんの登場です。 大阪府立大学と大阪市立大学が数年後に統合されます。名称はまだ分かっていませんが、 府立大と市立大はお互いが吸収されてしまうのではないかと危機意識を募らせています。 OB・OGは、自分の母校がなくなってしまうのではないかと危機感をかなり持っています。 大阪の行政からすれば、少しでもコストを抑えようということで、当時いろんな話がありました。
 橋下さんが府知事になったときに、府立大学を売っ払え、金食い虫だから売り払えと打ち上げました。 そこで手を上げたのが関西の大規模私立大学です。このなかには「関関同立」の1つも含まれています。案外、現実味を帯びているのが、 橋下さんの当時の怖さだったのです。それまで例えば公立大学が移管するという、戦後一時期に国立への移管、 その逆のこともありましたけれど、少なくとも70年代以降、公立、国立の設置者が変わるというのを、ためらわなかった。 それが今、公立大学と私立大学が一緒になるというようなことも文科省の改革構想スキームの中にはあります。 「府立何とか大学」を「私立何とか大学」になどと。それくらい国立、公立、 私立という設置形態に関係なく大学のあり方が2000年以降ずいぶん問われてきました。
 余談ですが、東京都副知事の猪瀬直樹さんが都知事選挙に立候補したときに私は取材に行きました。 猪瀬さんが知事選で一番訴えたのはオリンピック招致のことしか言わなかったくらい東京オリンピックを連呼していました。 そのときの選挙カーに2人の人物が乗ったのです。1人はスポーツジャーナリストの玉木正之さん。もう1人はJリーグ元会長、 Jリーグの最初の会長の川淵三郎さんです。川淵さんは東京オリンピックを招致するために猪瀬さんを必死にアピールしていました。 猪瀬さんが都知事に当選した後、余り報道されていなかったのですが、首都大学東京の理事長になったのは何と川淵さんだったのです。 私は最初にそれを聞いたときに、いわゆる論功行賞なのか、あるいは首都大学東京にサッカー部を作るのか、それをオリンピックに何か関わらせるのか、 大学の生き残り戦略として首都大学東京と2020年を絡ませるのか、などといろんなことを想像したのですが、そこまでは動いていません。 ただ、開催が現実になった以上、いろんな意味で首都大学東京が何するか分かりません。何にもしないかもしれないし、 オリンピックで名を売ろうとするかもしれない。ある意味、東大より名を売ろうとするかもしれない。7年後が不気味ですね。
 ほかにも波乱要素を抱えた公立大学があります。散々、経済誌で取り上げられていますが、秋田県立の国際教養大学です。 地元出身者が1割もいません。県議会ではあまりにも金食い虫だとの批判論議もあります。卒業生も8割、9割が県外に出て行ってしまう。 県議会は何かと問題があると指摘します。初代理事長・学長の中島嶺雄さんはそれも抑えて「こういう大学も必要なんだ」とされていた。 というような経緯で、今日ではちょっとメディアが持て囃しすぎ、ヨイショしすぎ、もう少し批判的なところがあってもいいのでは、 といっていいくらい、マスメディアは国際教養大学という1県立大学に対してヨイショしまくっています。しかし、公開された数字で見ると、 4割が留年しています。それだけ厳しいということと、付いて行けないという両方の側面がありますけれど、それでも就職率がいいと言っています。 そういう動きが公立大学の中で出てきています。

≪地域貢献の役割≫

 大きな大学や話題になった大学がある一方で、地域に根差した大学があります。大学ランキングのデータに入っていないのですが、 例えば地方公務員の市役所や県庁の職員になっている方は、恐らく北九州市立大学はかなり多いはずです。これは卒業生からの比率にしても、 九州全体からの比率にしても、さらに全国の大学の視点から考える中でも、地域貢献ということが、その大学の役割として当然あってもいいし、 そうでなければならないと思うのです。特に地元自治体設置の大学であれば、そこのところを大きな強みにして大学を運営していかなければならないし、 地域社会から見られていることを意識しなくてはならないと、私は考えています。
 九州の生まれ育ちではないので、北九州市立大学のことは分かりませんというエクスキューズを言うつもりはありませんが、 折角のご縁で、こういう場に立って話をしたり、大学の経営関係の会合に出たりしているので何とか盛り上げたいな、という思いもあります。
 大阪府立、大阪市立とか横浜市立とか首都大学東京とかみたいな、もともと公立の中では馬鹿でかい大学ですが、それらと並んで、 あるいはそれらに倣って北九州市立大学を盛り上げようというようなこと、認知度や大学の存在というものをこれからどうやってアピールしていくか、 というのをやはり考えていかなければならないと思います。

≪就職が大きなキーワード≫

 就職というのが、今、大学の中で大きなキーワードになっています。大学の入試説明会で、高校生の保護者が、 大学側に「卒業生はどこに就職しているのか」「就職率はどうですか」などと問い質すのはしょっちゅうです。 さっき申しましたように、「これ予備校じゃないんだよな」とか「大学ってそんなところじゃないんだよな」と本当は言いたいのですが、 こういう現状についても現実的に対応していかなければならないのが辛いところです。
 今、大学用語に「ステークホルダー」という言葉があります。これはもともと金融、銀行の関係者の言葉だったと思いますが、 大学改革でステークホルダーという言葉が使われ始めました。教職員のことや、大学に関わり合うことです。思い切った言葉で言うと、 関わり合う人という言葉になるのですが、そこでは当然、OB・OG卒業生も、大学を盛り上げようということでは関わり合ってくると思います。
 東京の大きな大学で「マスコミ懇談会」というのが行われます。去年、明治大学のマスコミ懇談会というのが開かれ、私は出席しました。 「明治大学の就職について」というテーマで、就職指導に関することでした。私が一番驚いたのは、明治大学はある意味で全国区なので、 全国にOB会の支部がいくつかあります。そこに呼びかけて学生の就職を何とかバックアップしてくれというのです。また地方出身の学生の親御さんに、 子供たちの就職について親は全面的にバックアップしてくれということを大学が訴えました。もっと分かりやすく言うと、大学は学生の親に対して、 お嬢さんや息子さんの就職支援に親としてできるだけのサポートをしてほしいというのです。
 明治大学にはその昔、非常に有名な就職課長の方がいて体育会的にやっていた方なのですが、 明治、法政というのはどちらかというと学生が親離れしていた大学だったのです。慶応に比べると、就職は学生だけがやるので、 就職は親と関係ないというような校風があったのですけれど、「えっあの明治までも」というくらい、親にアピールする、 あるいはOB・OGのネットワークをつなげて、何とか後輩たちの就職を盛り立てようとするようになったのです。 この大学もすごく危機感を持っているのだな、と様変わりを感じました。
 このところ、明治が志願者日本一になり、早稲田を超えた、という報道がたまに出ます。恐らく来年もそうなるかもしれません。 これは、はっきり言ってゴマカシというかカラクリがあります。私立大学で全学統一テストというのがあって、同じ日に3学部、4学部受けられる。 第1志望、第2志望があり、その場合に受験料はディスカウントされるわけです。ですから1人の受験生が、 同じ日の同じ時間に受験して3つ4つの学部の合格が受けられる。1人の受験生なのに3人、4人の合格者が出てしまいます。 合格者が出た分を志願者に換算されてしまったので、志願者日本一になってしまった。というような非常に簡単なカラクリがあります。 これをもし早稲田、慶応がやったら、もうひっくり返ります。来年の入試で日大がやるそうです。日大と法政が入学統一テストをやると、 もしかしたらひっくり返るかもしれません。
 就職の話に戻ります。入口と出口を私立大が一生懸命やっていると、これが受験生からみると国立大や公立大はどうしているんだろうということになります。 学費、教員数、学生数、教員1人当たり学生数、教育など非常に面倒見がいい。 また歴史と伝統があるということで公立大や国立大の方を私立大よりも第1志望におこうという感覚があったのですが、 私立大は生き残らなければならないので、高い学費というハンディがあるけれど、もう就職は必死です。 こうなると、大学選びのときに公立大や国立大が、もしかして私立大に負けてしまうのではないかということも考えられます。
 国立も公立も、その辺は十分に分かっていて、学費というアドバンテージがあり、確かに学費面では優秀な学生が集まってくる。 でも教育面、進路指導面、就職支援面でこれからどうしたらいいのかということをきちんとしていかなければならない。 例えば受験のときに小倉と博多の中間ぐらいに住んでいらっしゃる方がいて、福岡大に受かった、西南大に受かった、北九州市立大学にも受かった。 では、どこに行こうかと選択するときに、就職ということが出てしまうと競争状態になります。
 そこで、北九州市立大学を盛り立てるには同窓会会員、卒業生の方が、いろんな形で支援、応援できるかと思いますけれど、 今の在学生にハッパをかけるのもいいし、社会人になるためのノウハウを教えるのも、また実務教育を盛んに行うのもいいし、 教育に関わっていくのはいいと思います。

≪高い評価の国際化≫

 留学生受け入れ、外国人教員、国際ボランティアなどの国際化の指標です。私が注目したのは国際ボランティアです。 4年間の累計なのですが、24人という数字はかなり多いです。やはり学部の構成上、そういう目的意識、 問題意識を持った方がおられて教員が盛り立てている、と見て取れます。公立4位というのは、上位は首都大学東京や大阪府立大などの大規模大学なので、 4位というのは遜色がないと思います。
 次に留学生の派遣です。これも公立で2番目というのはかなり高いです。1番目は秋田の国際教養大学かなという気がします。 九州で1番多いというのはちょっと意外でした。福岡の私立大学は何やっているのだろうと。この留学生派遣というのは北九州市立大学の強みだと思います。 大学のランキングを私が作ったのは、本来、大学の特徴というのは、一番得意な分野をどうやってアピールできるか、 何が得意なのかというのを、まず大学の関係者が知るということです。恐らく卒業生、同窓会の方も、 今と30年前、40年前、50年前とではかなり違うかもしれませんが、違いをぜひ認識してもらえたらいろんな支援ができるかと思います。 国際化の重要な指標は、文科省が進めているグローバル人材養成です。これに北九州市立大学が採択されました。これはすごいことだと思います。 ぜひこのような強みというのを知ってもらいたいと思います。
 北九州市立大学の認知度を広めるためにはどうしたらいいかというと、ある意味でビジネスセンス的な考えをいうと、 大学の教職員、同窓会、同窓生がさまざまな場において北九州市立大学の話をすることです。お酒の場でも北九州市立大学の話をすること。 例えば「うちは九州の中で一番、留学生派遣が多いんだよ」ということを、あちこちで言い触らすこと。これが北九州市立大学の認知度を高める広める一歩です。 コンサルっぽいことを言うわけではないのですが、案外こういう「口コミ」っていうのは、効果があるものです。 例えばメディアが「留学生を派遣しているのはどこの大学が一番多いの」と尋ねたときに、「北九州市立大学だと聞いたことがあるよ」 という「口コミ」のリレーがほしいのです。今日お渡ししたランキングの上位の指標をいろんな方に宣伝してあげてください。 得意分野がまだまだ弱いといっては何ですが、これから伸びる分野もいくつか書きましたので、ここは強いよということで、 北九州、福岡県、九州全体に少しずつでも広めてもらいたいという思いがあります。
 留学生の受け入れの指標です。もともと留学生受け入れ大学というのは、それを売り物にしている大学がやたらたくさんあります。 ということは、結構危ない大学も含んでいます。ですから、定員割れしたので外国人を呼ぼうというところまで含めてしまうと、 むちゃくちゃ多いのです。留学生比率が高い大学イコール国際化が進んでいるといえなくもないのですが、あくまでも手法であって、 違う側面から見ると「え〜」ということがありますので、あまりこの辺は一喜一憂せずに、問題は受け入れた留学生の質の部分だと思います。 それが、では地元に帰って活躍できる、あるいは日本で頑張ってくれるのだろうか、ということになります。北九州市立大学に留学したということが、 地元でいい教育を受けたということをどう広めてくれるのか、あるいは日本でどう広まるかということに尽きます。したがって、 こと留学生受け入れについては数の論理に振り回されてしまうと、質の部分で問うことがなかなかできなくなってしまうことになります。

≪女子学生の多さを強みに≫

 去年の数字なので、現在と若干ずれがあるかもしれませんが、約6000人という規模です。将来的には、 先ほど触れた大阪府立大学が日本最大の公立大学になると思いますが、こういうマンモス大学はさて置いて、 北九州市立大学は女子学生数が非常に多い大学です。最初に話した大学体験というテレビで見た風景から言うと、 男子校かなと感じたことがありました。北九州市立大学の50年史を見たときに、前身の外事専門学校時代からが男子校的なイメージが私にはありました。 今は文・外国語系以外の自然科学系、環境系を含めて全学系、社会学系でも女子学生が非常に多くなりました。
 北九州市立大学の話ではなくて、女子学生の比率の多い大学の経営者に話を聞くと、あまりよろしくないとおっしゃる方が意外にいました。 もうちょっと男子がほしい。女子が多くて、と。例えば学部構成上から保健栄養看護系で女子学生が9割というのは分かります。 しかし総合大学として女子学生が9割、あるいは男子学生が9割というジェンダーバランス、 つまり性別のバランスが極端だったらちょっと考えないといけないと思いますが、私は自然の流れでいいと思っています。 むしろ北九州市立大学の女子学生が3100人を超えるという、その女子学生の元気さというのをもっとアピールできる場があってもいいのではないかな、 と思っております。
 数年前から中央省庁の公務員に、そして大企業に多くの女性が進出して働いています。もうそろそろと思いますが、 多くが中間管理職以上のポストに就くでしょう。同窓会の女性会員の比率も10年後、20年後どうなっているか分かりません。 女子学生が多いということで、キャビンアテンダントにたくさん行きなさいよ、というわけではありませんが、 それが強みということがあってもいいのかなと思うのです。男子学生は今まで以上に頑張ってほしい。特に男子学生だから、 女子学生だからということはないのですけれど、そこはうまくお互い競争し合ってほしいなと思います。同窓生、卒業生の方々の中には 、女の子多いよな、と思っている方がいるかもしれませんが、そこは全く気になさらないで、盛り上げるため頑張ってほしい、 温かい目で見守ってほしいと思います。

≪国家公務員(上級職)の合格者≫

 国家公務員試験で、従前のT種いわゆるキャリア(上級職)の合格者がここ数年、出ていません。 国家公務員T種、今は総合職事務系と言いますが、2007年に3人、2008年に1人いて、公立大の中では結構高かった時代がありました。 これもある意味で偶然性というか、その時代にいた学生の志向、とんでもなく優秀な学生がいたとしても「福岡県職員や北九州市職員になりたい」 という学生がいらっしゃれば、別に国家公務員にならなくてもいいわけですが、やはり毎年1人や2人いてほしいな、と私は思います。 最新のデータによると、2013年度に国家公務員総合職事務系で合格者1人を出しており、次年度以降も合格者が続くことを大いに期待したいと思います。 今いると、いないとでは違うということではないのですが、やはり中央で働く国家公務員に北九州市立大学出身者がいるということが、 大きな縁になるし、励みにもなります。
 この例えの比喩として全く当てはまらないと思うのですが、今、北九州市立大学出身のプロ野球選手に2人、今年のドラフトで2人います。 やはり酒の場で盛り上がりますよね。公立大学出身のプロ野球選手は本当に珍しいです。2人というのは公立大では北九州市立大学だけではないでしょうか。 こういうのは話題になるし、自慢になるし、盛り上がるし、息子に自慢できますね。
 例えば東大とか早稲田みたいに、やたら石を投げれば有名人に当たるというようなところ、何も面白くないのです。 北九州市立大学の卒業者で今年、国家公務員の合格者がいたよとか、司法試験に受かった人がいたよとか、そういう人がいたときには、 やはりうれしいものだと思います。これは大学を盛り上げるという意味で、ひとつの方法かと思います。

≪認知度高い公立大のブランド力≫

 市立大学、県立大学というのはブランド力があります。ひとつの例を紹介します。それを一番身に染みて経験したのが、 広島県の尾道大学、今の尾道市立大学です。もともと短大だったと思いますが、尾道市が尾道大学というのを数年前に設置しました。 この大学の学生が就職試験のときに、「どこの私立か」と言われたことが問題になりました。これはこの大学の先生や学生さんから聞いたのですが、 設置者を明確にしたい、尾道大学が私立なのか、国立なのか、公立なのか明確にしたいと。ある意味でこれは大学の経営戦略のひとつと考えていいと思います。 今年、尾道大学は尾道市立大学に改称しました。そのくらい、公立大学志向というか、ブランドに対する思いは、地元は非常に強いのです。 例えば北九州市立大学の学生さんが東京や大阪で就職活動をした場合に、人事採用担当者からすれば、公立ということで学力が担保されているとまだ思っています。 まだ思っていますというのは、これから下がってもらってはまずいね、という意味合いなのですが、それは公立大学のブランド力がありますし、 これはなくならないと思います。ただ、それは学費が安いということではなく、それは皆さん方が培ってきた伝統だと思います。それを大事にしていただきたい。
 では認知度というのをこれから大学の経営戦略としてどう考えたらいいのか。大学に周知徹底させるために、大学だけで考えるべき話なのか、 同窓会の方も一緒に考えたらいいのかという話になると思います。やはり皆さんも考えてもらいたいなと思います。いろんな方法があります。 私立大学や国立大学の中には学長あるいは理事長が、つまり大学の責任者が広告塔、宣伝塔となってあっちこっちに出まくるというのもありますし、 そんなことできないという場合はスター講師をいっぱい作る、スター教員がメディアに出るという手もあります。また北九州市立大学では徹底されていますが、 シンボルマークを徹底させるのです。
 さらに地域住民のとの交流を今以上に広める。CI(コーポレートアイデンティティ)がそうです。 大学改革のときに、市立大学UI(ユニバーシティアイデンティティ)だったか、大学のイメージを変えなくてもいいのだけど、 何かシンボル、象徴されるようなものを作ろうとか。大学のシンボルカラーは青だとか、緑だとか。広島(カープ球団)みたいに赤だとか。 こういうことをするとか、これからの大学のイメージです。これを見たら「北九州市立大学」だと分かるような広報戦略というのが、 これから求められていくと思います。
 見てすぐ分かる、というものが必要です。東京にいる私にも伝わってくることを望んでやみません。 東京に、関東にいる人間にも北九州市立大学というシンボル、名前というのが伝えられるように、皆様に頑張ってもらいたいことを本当に訴えたいと思います。 偉そうに、といわれるかもしれませんが、私は大学ランキングという情報誌を作って基本的には大学性善説をとっています。 どんなにむちゃくちゃな経営陣がいようが、不祥事があろうが、学生が悪さをしようが、逮捕されようが、とんでもないことなっている大学であろうが、 教職員や学生が一生懸命やっている人がいると、やはり大学性善説を応援したい。 同窓会の皆さんもぜひ伝道師となって東京に伝わるようにしていただきたいと思います。
 ご清聴ありがとうございました。


【 講師プロフィール 】
1960年 神奈川県出身
教育ジャーナリスト
朝日新聞出版「大学ランキング」編集部( 1994年〜 )
北九州市立大学経営審議会委員(学外委員)( 2011年〜 )
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成蹊大学国際教育センター非常勤講師( 1995年〜2011年 )
名古屋大学高等教育研究センター客員助教授( 1999年 )
広島大学高等教育開発センター客員研究員( 1999〜2001年 )
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≪ 主な著書 ≫『最新学校マップ』(河出書房新社)/『高校紛争1969-1970』(中央公論新社)/ 『東大合格高校盛衰史』(光文社)/『ニッポンの大学』(講談社)/『飛び入学』(日本経済新聞社)/『理系就職白書』(丸善)など